ブルースに写真を撮ってもらったのはもう三年ほど前になる。
娘のあきが19才のころである。
世の例に漏れず、我が家でもそれまで仲のよかった親子が
思春期をむかえると突然、変貌した。
成長した娘の姿を見るだけで、「なに見てるの、エッチ」と
冷たい視線を投げかけられ、父親の手にしたものは
なにか汚らわしきもののように扱われる。
ところが、大学に入ると、これまた突然、憑きものが落ちたように
娘との関係も復活して、会話が戻ってきた。
写真を撮ってもらったのは、たしか、そんな頃だと思う。
それまで、手をつなぐなんて、まったくの想定外なことだったんだから、
この日も朝早く、バタバタでスタジオに向かった。
妻は気をきかせてか、私と娘をふたりにしてくれた。
仕事でほとんど家にいない私と娘が、二人きりで出かけるなんて、ほとんど初めてだった。
だから、親子水入らずで、過ごした数時間は貴重に思えた。
写真撮影は押せ押せで2時間くらい待つことになったが、かえってこの時間がよかった。
のんびり行きつけの蕎麦屋で昼食を食べながら、たわいもない話をした。
娘は、どう思っているかわからないが、父親にとっては、「それはそれは幸せな」数時間だったのだ。
娘は、私と同じ血液型のB型で、顔は母親の血も引いてなかなかの美人なのだが、、、(←これは親ばか)
性格や、行動パターンなど、完全に父親似だ。
たとえば、教えてもいないのに玄関に脱ぎ捨てられた靴の形がまったく同じだったり、
締め切りぎりぎりになって、あわてて仕事をする父親の隣で、宿題の提出の追い込みをする姿など、
思わず、わが姿を見るようで笑ってしまうのだ。
朝のあわだだしさも、携帯を忘れてあわてて戻ってくる姿もどこかで見たことがある光景なのだ。
それで、妻はなにか注意する時、「あなたたち!!」といっしょくたに怒られることになる。
弁護士をめざして法学部に入った父親は、現在テレビコマーシャルのディレクターをしている。
一方、娘は国立大学に入学したのに3年生の時に美術大学に転学して
今年からは芸大の大学院に行くという。
なんとも遺伝子のプログラミングはおそろしいものだ。
これからも親の辿ってきた人生と同じような道をたどるのか、と思うと
ひやひやしながらも、楽しみで見つめる毎日である。
そして、今も我が家のリビングに手をつないだふたりの写真が飾られている。
ちなみにこの写真以来、娘と手をつないだ記憶はない。
親子の日に乾杯!
猪股敏郎
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